#01「青柳」の若女将 倉橋恭加さん

フルスプ**fleursoupe**

2008年07月06日 17:03

和服姿が凛とした
くまもとの老舗料理店の若女将は、そのたたずまいも生きかたも、
実に凛としたひとでした。
創業59年目を迎えた熊本市下通の郷土料理店「青柳」の若女将、
倉橋恭加さんにお話を聞いてきました。


 * * * * * * * * *

「青柳」の2代目の娘である倉橋さん。
もともとのお顔立ちもありますが、その和服姿は、みているこちらも思わず息を呑む美しさです。
でも、学生時代の倉橋さんは、それまで大変な思いをして働く両親の姿をみながら、「絶対に家業を継ぐのだけは嫌だ」と思っていたそうです。郷土料理店の娘なのに、着物を着ることはおろか、和のもの一切との関わりを避けるような子ども時代を過ごしました。
さらに、大学も「なるべく遠いところに…」という一心から東京に進学し、就職も東京の会社にするなど、かなり徹底して家業との距離を置こうとしていました。

そんな倉橋さんに転機が訪れたのは、就職して3年を迎えた25歳のとき。
とあるセミナーに参加した倉橋さんは、「本当の自分自身と向き合う」ことに心を砕くようになったそうです。
「それまで、自分の人生のことを全部、他人のせいにしてきたんですね。でも、会社にも数年勤めて、働くことの意味も分かってきて、何となく先も見えてきて(笑)、恋愛も充実してる25歳という時期に自分ととことん向き合うきっかけが得られたことで、自分が強く思えばいろんなことが変わってくるんじゃないかと思ったんです。それで、いろいろと自分の中でけじめをつけることができたんですね」と倉橋さん。

考え抜いた結果、倉橋さんは家業を継ぐことを決意します。
就職してたった3年での決断。倉橋さんの親である2代目はまず、「OLが嫌になったのか」と尋ねました。倉橋さんが、「とにかく継いでみたいと思った。儲けが出なくていいから、長く続けていけるようなお店として守っていきたい」と応えると、2代目はやっと、倉橋さんが継ぐことに理解を示してくれたそうです。

ちょうどその間に、倉橋さんは同じ会社の男性と結婚しましたが、夫となった人は倉橋さんの決断を聞いて、自分も会社を一緒に辞めて店を継ぎたいと言ってくれたそうです。

倉橋さんご夫婦は、東京のホテルニューオータニのなかにある日本を代表する料亭「なだ万」に修行に出、夫は料理、倉橋さんは接客やマネージメントについて、厳しい訓練を受けました。郷土料理店の娘とはいえ、着物の着付けも立ち振る舞いもよく知らない倉橋さん、その苦労はかなりのものだったそうです。
「ああいうところは、お客様が何も言わなくてもすべてのことが行われるように、接客が徹底してるんです。それは大変でしたけど、いくら私が見習いでも、お客様から見れば同じ、“なだ万”の従業員なんですね。本当に夢に見るほど辛かったですけど、一流の接客を叩き込まれたあの期間は、今も大切な財産になっています」と倉橋さん。

なだ万での修行を始めて2年後、倉橋さん夫婦は、家の事情で熊本に帰ってくることになります。
帰ってきてすぐ、「青柳」が新しく開店させるお店の準備に借り出され、そこで1年半ぐらい、一から立ち上げていく苦労を経験。
その後やっと「青柳」に入ることとなりましたが、さらに1年半ぐらい、2代目の娘であることをお客様にも従業員さんにも隠しながら、一従業員として修行を積んだそうです。
そんななか、制服とは違う着物を渡されたのがおよそ5年前のこと。以来、名実ともに「青柳の若女将」として活躍中です。
「青柳に入ってしばらくはしんどかったですよ。私もなだ万で修行してきた自負があるものですから、母(2代目)にいろいろと意見したりしてたんです。でもその都度、“うちは東京の接客は望んでない。お客様は、熊本のよさとかあたたかみを望んでるんだから”って言われました。今思えば、そのころの私の接客は、“仕事”ではなく“作業”だったんですね。お客様の気持ちが全然分かってなかったし、分かろうともしてなかった」と倉橋さん。

そんな倉橋さんが変わったのは、もちろんお客様に育てていただいたお陰でもありますが、一番は子どもができてからのことだそうです。
「人に対する思いやりを持てるようになったんですね。これは飲食店の基本でもあるのに、私は本当にできてなかったんです。心がこもってこそ、お客様を思いやってこその接客です。うちと同じようなお店はたくさんありますけど、ここを選んでよかったと思ってもらうには、どれだけお客様のことを考えられるかだと思います。料理はよくて当然。そこにプラスアルファをつけるのが女将、若女将の仕事です」と倉橋さんは顔を輝かせます。

若女将業での一番の楽しみは、たくさんの一期一会のチャンスがあること。
「今の自分を楽しむこと」を座右の銘に、きょうも倉橋さんは、くまもとのお客様の一期一会を丁寧に、心を込めて演出なさっています。



倉橋さんが若女将を務めるお店
 熊本郷土料理 青柳

  熊本市下通1-2-10(城見通り)
  営業時間 11:30~22:00(年中無休)
  電話:096-353-0311  0120-898925
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